理事長挨拶

本年、4月より高柳涼一前理事長の後任として日本ステロイドホルモン学会の理事長職を拝命しました。学会発展のため、4年間、ご尽力くださいました高柳先生に心から感謝申し上げます。この場を借りて、新任のご挨拶をさせていただきます。

本学会は、故宮地幸隆先生が、平成5年(1993年)に我が国におけるステロイド学の発展を願って、ステロイドホルモン研究会を立ち上げられたことに端を発し、平成8年(1996年)より学会(第4回)に昇格し、既に22年の歴史を刻んでいます。本学会はステロイド学を学ぶ、あるいは愛する内科、小児科、婦人科、泌尿器科、基礎系の先生方が一同に会して討議する学会として、発展してまいりました。初代理事長宮地幸隆先生、二代目名和田新先生、三代目碓井亞先生、四代目大関武彦先生、五代目高柳涼一先生に続き、私が六代目となります。事務局は福岡大学に移管され、事務局長は、田邉真紀人が務めさせていただきます。

ステロイド学は、1849年のThomas Addisonによるbronzed-skin disease (後年のAddison’s disease)の発見に端を発します。1936-1948年にかけてKendall,Reichsteinらによるcortisonの単離同定の成功、1949年のHenchによるcortison のRA患者での有効性確認へと結実し、1950年に上記3人がノーベル賞受賞に輝いています。その後、各種ステロイドの構造決定の時期を経て、分子生物学の発展を背景に、1985-2005年にかけてステロイド合成・代謝経路やステロイド作用機構が解明され、先天性副腎酵素欠損症などのステロイド産生異常症の病因もほとんど解明されるに至りました。これらの研究の進展には多くの日本人研究者が貢献したこともよく知られています。

しかしながら、ステロイド産生異常症は、いまだに病因不明の病態が存在する、大変、奥深い研究領域です。近年、家族性糖質コルチコイド欠乏症の新たな病因としてミトコンドリアの抗酸化系酵素のNNTやTXNRD2の異常が発見されたことは、その好例と言えます。今後、ステロイド合成環境を取り巻く様々な修飾要因の研究が新たなブレイクスルーを生む可能性があると言えます。また、クッシング症候群副腎腺腫では、この1-2年、腫瘍の全エキソーム解析によりcAMP-PKAシグナル系のPRKACA体細胞変異が日本人グループを含め複数のグループから明らかにされ、サブクリニカルクッシング症候群(SCS)との異同など、成因論でも新たな展開を見せています。また、原発性アルドステロン症(PA)の成因研究は、2011年のKCNJ5遺伝子変異の発見以降、大きく飛躍しており、今後も続々と新たな展開が見られることでしょう。2015年には、やはり日本人研究者によりクッシング病下垂体腺腫の成因として脱ユビキチン化酵素 USP8の機能獲得型変異が報告されました。今後、iPS細胞技術を用いた稀少疾患の成因研究、創薬研究も大切な研究の方向性になっていくことでしょう。にわかに活況を呈しつつあるこの分野の研究ですが、残念ながら、必ずしも全てが本学会に根ざした研究の現状ではありません。今後、多くの基礎系、また若手臨床研究者の先生方に本会にご参入いただき、魅力的な新知見が本学会から続々と発信されますこと、切に願う次第であります。

一方、臨床面では、大変、嬉しいことに副腎不全症の3疾患(アジソン病、先天性副腎酵素欠損症、先天性副腎低形成)が本年1月から厚労省の指定難病に選定され、また、4月には副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)不応症も指定難病に追加選定されています。助成対象となる患者様にとっては大きな福音であり、本学会の会員の先生方の長年のご尽力の賜と深く感謝申し上げる次第です。

このことに関連して、副腎不全症の診療ガイドラインや各種疾患の診断基準、重症度分類も日本内分泌学会、日本小児内分泌学会、厚労省、本学会とも連携した上、平成26年度に作成しており、今後は、本学会でも、情報の公開とその改訂等において先導的役割を果たしていきたいと考えております。コートリルによる現行の補充療法では、生理的コルチゾール分泌変動の完全な再現はできないことから、今後、徐放型hydorocortisoneの開発に期待が高まっており、副腎不全症疾患群の指定難病選定はその意味でも追い風になるものと思われます。

またPA診療の標準化を目指したコンセンサスステートメントの作成なども内分泌学会を基盤に成瀬光栄先生を中心に進捗中ですし、コルチゾールやアルドステロンアッセイ系の標準化も進行中です。また、個別の学会は既にありますが、ステロイド学を探究する立場から、男性・女性更年期診療、ホルモン依存性癌などは本学会でも大局的にカバーすべき領域と言えます。関連疾患の各種診断基準、診療指針、ホルモンアッセイ等、社会的ニーズの高い情報は、HP等を通じて会員の皆様にできるだけ公開し、いつでも議論ができる機会や環境を設けたいと思っております。

生活習慣病分野領域におけるステロイド研究もosteocalcinを介した骨-代謝連関、11β-HSD、SCS、性ステロイドなどをキーワードとして拡がりを見せています。社会的ニーズを意識した学会活動という意味でも、大変、重要な分野です。また、ステロイドの作用、副作用の分離は、ヒトへの最初の投与以来65年たった今でも未解決のままであり、この分野の悲願とも言える宿題となっております。近年、各種ステロイド受容体活性の組織選択的修飾剤の開発が進められており、ラロキシフェン、バセドキシフェン(SERM)に続く成功例が出ることを期待しています。糖尿病分野を見るまでもなく様々な薬剤開発は研究を促進し、本学会のさらなる活況に繋がることは言うまでもありません。

本学会を取り巻く環境はけして楽観的なものではありませんが、「明るく、楽しく、積極的に」をモットーに社会や他学会との繋がりを大切に、将来像を見据えた学会運営を心がけていきたいと思います。浅学の身ではありますが、本学会の発展のために、尽力する所存でございます。学会員の皆様には、引き続き、ご指導、ご支援のほど、何卒、よろしくお願い申し上げます。

第25回
日本ステロイド
ホルモン学会学術集会