患者さんへ

対象疾患悪性脳腫瘍

悪性脳腫瘍

脳実質内細胞から発生する神経膠腫(グリオーマ)は、周囲脳に浸潤性に拡がりながら増殖する腫瘍です。境界が不明瞭であり、手術での全摘出は困難であることが特徴です。手術で摘出した腫瘍細胞は病理診断が行われ、「びまん性星細胞腫」、「乏突起膠腫」、「膠芽腫」に分類されます。これらのタイプによって腫瘍の性質は異なり、それにより放射線治療や化学療法などの後療法(追加治療)を選択します。

悪性脳腫瘍

【写真左】 右頭頂葉にリング状に造影効果を受ける腫瘍性病変を認めます。
【写真右】 腫瘍の病理組織像です。腫瘍が柵状に配列した壊死組織(palisading necrosis)がみられ、膠芽腫の所見です。

日本国内での神経膠腫(びまん性性細胞腫, 乏突起膠腫, 膠芽腫)の発生頻度は、全国脳腫瘍集計調査報告では、全脳腫瘍の21.3%とされています。その中でも高悪性度の膠芽腫は半数を占め、化学療法や放射線を用いた集学的治療が必要とされています。

症状の出現には2つの機序が考えられます。一つは頭蓋内圧亢進症状で、腫瘍による脳の圧迫や浮腫により頭蓋内圧が上昇して、頭痛や嘔気・嘔吐、うっ血乳頭による視力低下などが出現します。もう一つは脳の局所神経症状で、脳腫瘍による圧迫や組織破壊によって麻痺や知覚障害、高次脳機能障害、けいれん発作などが出現します。

神経膠腫は正常組織との境界は不明瞭で、全摘出が困難な腫瘍です。当科では安全に手術を行うために、術中ナビゲーションシステムや5-ALAを利用した安全性の高い手術を行っています。また、神経内視鏡を用いたMIS(Minimally Invasive Surgery)と呼ばれる低侵襲手術の取り組みにより、可能な限り神経機能を温存しつつ、最大限の腫瘍摘出を目指しています。

低侵襲手術, MIS(Minimally Invasive Surgery)

身体に加える手術侵襲をできるだけ少なくする手術方法です。病変部を取り除くだけでなく、傷を小さくし、周囲の正常脳組織や血管に対して侵襲を最小限にする治療方法で, 様々な工夫を行います。

1.神経内視鏡手術

頭蓋骨にあけた2-5cm程度の孔から、胃カメラより細い内視鏡を挿入し腫瘍を摘出していきます。従来の開頭手術より皮膚切開は小さく、大切な血管や神経を拡大して詳細に確認できるため、侵襲が少なく安全な手術が可能となります。神経内視鏡手術は下垂体腫瘍や、脳出血や水頭症、嚢胞胞性疾患などの病気では一般的に用いられていますが、福岡大学では神経膠腫(グリオーマ)にも応用し使用しています。

神経内視鏡手術:皮膚の切開
小さな切開で手術可能

神経内視鏡手術:皮膚の切開

【写真左】左前頭葉に腫瘍を認めます。
【写真右】 6㎝程度の皮膚切開で腫瘍摘出を行いました。

2.術中ナビゲーションシステム

術前に撮影したCTやMRI画像を元にナビゲーションを行うことで、手術中に腫瘍への経路や大事な血管や神経の位置がリアルタイムで確認でき、より安全で正確な手術が可能となります。

正常機能を残し安全な部分を摘出

正常機能を残し安全な部分を摘出 術前
術前

正常機能を残し安全な部分を摘出 術後
術後

3.5ALAによる術中腫瘍の同定

5-アミノレブリン酸(5-ALA)というアミノ酸を手術前に内服することで腫瘍と正常脳を区別することが可能となります。特殊な光を照射すると腫瘍は赤く蛍光します。

4.術前MRI、術中モニタリング

術前のMRI検査で拡散テンソル画像と呼ばれる特殊な撮影を行い、運動神経の走行を確認し、手術中に運動機能や感覚機能をMRI(運動誘発電位)、SEP(体制感覚誘発電位)などといった術中脳波や筋電図でモニタリングをしながら最大限に脳神経機能を温存できるように手術を行います。

悪性神経膠腫に対するその他の治療方法

1.放射線治療(治療期間は約6週間)

放射線を照射して、腫瘍細胞を治療する方法です。グリオーマは浸潤性(染み込むような)腫瘍であり、術後に放射線照射が必要な場合があり、放射線科と連携しながら治療計画を立てています。腫瘍の場所によってはIMRT(強度変調放射線治療)というできるだけ正常組織への影響を少なくし、腫瘍にだけ強い放射線が当たるように照射する方法も行っています。

2.化学療法

  • BCNUウェファー(手術中に留置):グリオーマを摘出した後、摘出腔に張り付けて使用する抗がん剤です。
  • テモゾロミド(放射線治療を併用して6週間内服、その後外来で半年内服):術後に放射線治療と併用して使用する経口のアルキル化剤です。外来でも維持療法として使用します。
  • ベバシズマブ(術後点滴で2-3週毎投与):分子標的薬であり、症例によって、初発、再発の悪性グリオーマに使用します。

3.Novo TTF-100A システム(術後外来で開始)

新たな膠芽腫に対する治療機器としてわが国で2016年12月に初発及び再発神経膠芽腫の治療として認可されました。頭皮の上に電極パッドを貼り、非常に弱い中間周波(200kHz)の交流電場を持続的に発生させ、腫瘍細胞の分裂を阻害します。

どの治療も効果的である反面、合併症や後遺症、副作用などがありますので、病気の経過に合わせて必要な治療を行います。

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