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働く女性における-備え-とは?

福岡大学 脳神経外科
千住緒美

女性に特有な環境

働く女性の心配事とはなにか。結婚、育児、病気、老後、金銭面などたくさんある。女性としての在り方は昔とかわってきており、人生設計の中で仕事を組み込むことが多くなった。ある程度働いてから結婚すると晩婚となり、30代での出産が増えて高齢出産の割合も高くなった。平均寿命87歳という今の時代で、30歳までを自分のために使う時間として考える女性も多いかもしれない。女性が仕事とプライベートの両立で悩む事といえば、結婚や育児と答えが返ってくる。昔よりも生き方に多様性が生じている現代の女性は、ある年齢に達すれば親の選んだ人と結婚して家庭に入るということは無く、自由に生きていると言える。だが、それなりに特有の悩みも増えているように感じる。

私の高校や大学も親の時代と比較すると女性が何倍も増えており、学生の時は女性の方が成績はよい傾向にあり、男性と比較しても生活や職業への不安は特に変わらないと思っていた。ところが、いざ働いてみると女性としての気質や身体の構造上、仕事へまっしぐらに進む男性と異なり、何かとプライベートへの心配事がでてきてしまった。出産はある一定の年齢までに女性しかできないし(現代の医学で高齢でも充分可能だが、母子ともに合併症の確率が上がる)、育児や家族・親の病気の世話は女性がしなければならないことが多い。私は脳神経外科医なのでよく高齢者が脳卒中で運ばれてくるが、“長男の妻”や“娘”が真っ先にかけつけ、色々な同意書にサインをし、その後も必要な衣類やタオルを交換しに来院する場面によく遭遇する。昔とは変わってはきているものの、日本の文化としては女が家のことや看病をする傾向にあるのが現実だと実感している。女性は、自分のライフプランが変化していくことと、それが予測困難であることに戸惑うことが多いのではないか。

女医としての悩み

私は仕事を始めてから、プライベートや将来について同僚と相談し合っていたが、多くの悩みは仕事と私生活の両立にあった。私たちは学生期間が6年間、研修医2年間、その後ようやく新人として扱われ、それからより専門的な資格を得ようと思ったら追加で4年くらい必要なので、少し自信を持って働けるには高校卒業から10-15年はかかる。この期間を過ごしているうちに、私の高校時代の友人は会社で肩書きを持ち、子供を2-3人産み、家を建て始めていた。責任を負う仕事であるため、自分のことよりも他人のことが優先され、時間的にも婚活や妊活の暇はない。しかし、どんどん歳を重ねていく。毎年のように職場は異動となり、師弟関係として上司に指導をお願いする職場では、仕事を休むととても迷惑がかかるし、上司なしでのキャリアアップは難しい。いっその事やめて他の仕事をしようかと思い至っても周りからは“せっかくお金をかけて医者になったのに”と言われ、やはり社会に貢献せねばとまた奮起する。

仕事との両立をしなければならない女性はたくさんいる。しかし、働いていて思うのは、仕事には経験が必要であるし、責任の重さは家庭の有無や男女と関係ない。突然休めば迷惑をかけるのは当然で、上司の指示は絶対だし、同僚ならば助け合うのが当然だ。海外では保育所の発達と夫の協力、時間がきっちりと細分化され効率化されたpart time jobの一般化により当然のごとく女性が働いているが、残業やサービスが好きな日本では、まだまだ難しい部分がたくさんあるのではないか。

女性が働く上での“備え”とは?

そんな中で、女性が仕事とプライベートを両立するためにもっておく“備え”とは?環境に柔軟に対応できることが、最も必要になってくると思う。結婚、引っ越し、出産、家族の病気による介護などは突然やってくる。その逆で、私のように、思い描いていた年齢では結婚や出産はできず予定外に働き続け責任が増えるということもあるのが現実である。それでもプライベートと仕事の両立をするためには?

まずは自分のライフプランに優先順位をつけておくことが必要であると思う。タイミングを“決められない”、そして、“逃せない”女性にとって、ある時にどう選択するかを決断するのは非常に重要なことだ。仕事と結婚のどちらを優先するか、子供をつくるか、いつ妊活に足を踏み入れるか、子供ができたら仕事を再開するか、他にも若いうちに世界一周旅行を必ずしたいとか色々と夢もあるだろう。人生において何をしたいかを選択できる時代だからこそ、その選択は、自分で決めておかなければならないと実感する。

次に必要なのは、それをふまえた環境ではないか。最初から判断するのは難しいが、自分が何よりもキャリアを優先するのであれば、女性も男性と同等に扱ってくれるところにいくべきだし、他のことを優先したいと思えば、今後自分が休職してもかわりをしてくれる人がいる職場に身を置くことが必要であると思う。後輩を育てたり、同じ考えの仲間を募ったり、時には先輩にも頼る必要があると考える。また、自分がキャリア以外を優先した時でも、可能な限り責任を果たせる環境であるかどうかも考えながら環境や、時には上司や仲間を選択していく必要がある。

もう一つは、新たな場所にいかなければならない場合、例えば引越しや仕事の再開などへの備えだ。職場から必要とされるには、その道での経験が必要であるが、新しく雇ってもらう身分である以上、その証明をしなければならない。経験値の証明書が資格であると思う。多少のブランクがあっても、必要としてもらえるものを持っている必要がある。私たちにとってはそれが専門医であったり、検査の技術資格だったりする。特に人より少し別のことがいくつかできるようになっておくと、幅が大きく広がり、需要が増えなにかと役に立つものと考える。

上司との出会い

私は、脳神経外科という救急対応メインの職業についた。毎度のように“なぜ脳外科なんか選んだのか?”ときかれる。それは私の上司である井上教授との出会いにあった。先生は当時脳神経外科としての女医の育成を考えておられ、女性は働くだけではなく出産や育児もしながら働けるようにならないといけない、という考えに賛同した。もともと脳神経外科に女医は少なく、なんとなく外科にいく女性は気が強くて、男と戦いながら手術の腕を磨く印象で、(偏見もあるが)子育てとの両立でできるようになるわけがない、男と対等に何年もやっていくものしか立ち入れない領域、という風潮があった。確かに、本当に必要な医師とは、常に急患対応ができ24時間かけつけられるのが理想ではある。しかし、大学の学生は男性が減って女性が増え、止むを得ず仕事を辞めていったり入局先が偏ったりしている女性の状況をみて、教授は女医としての働き方を考えられたのであろう。将来男性と必ずしも同じことができるようにならなくてもよい、ただ、他にできない技術をいくつかもっておくべきだというアドバイスのもと、入局後も脳神経外科の診療だけでなく超音波検査やリハビリテーション、腰痛治療など数々のことを勉強させてもらった。“役に立つ脳神経外科医になれ”と。同じような先輩のいない状況で、一人で開拓しているような環境であり、他の人よりも余計に勉強したり資格をとったりすることも多かったが、今では結婚し子供を持つようになって、手術や救急対応ができない状況でも私を必要としてくれる場所がある。それは、このように外来診療で役に立つ特技をもっているからこそできる仕事であり、当初からそのようなアドバイスをし、実際にやらせてくれた教授にとても感謝している。

多様化した女性の人生設計において、誰もが安心できる“備え”をもつことは難しい。しかし、振り返って満足できる人生にしていくためには、何かしら前もって自分で考え方や少しの特技をもっておくとよいのではないかと考える。

(七隈の杜 2017年no.13掲載文を一部編集して転載)

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