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分子遺伝学・分子生物学の臨床医学への応用により、疾患に関与する遺伝子・分子が多数同定され、さらに、それらの詳細な分子機序の理解に基づく新しい治療法が世界中で開発されてきています。 当教室では大腸癌発症の鍵となるKRAS遺伝子の解析に始まり、その制御遺伝子としてEGFファミリーの一つであるepiregulinの同定と機能解析、新たな代謝関連分子としてのKRAPの同定等、多様な種類の発癌関連分子の解析を行ってきました。近年では、二次元環境とは異なる、より生体環境に近い実験系を樹立し、三次元特異的なKRAS制御シグナルの解析と阻害剤の開発を行っています。 一方、疾患ゲノム解析により自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病)感受性遺伝子として、独自にZFATを同定・報告し、その機能解明に関する研究を精力的に進めています。これまでに、ZFATが免疫系細胞や血管内皮系細胞において、さらに、初期発生、血球分化においても必須の役割を担うことを明らかにしてきました。最近、身長、癌・心血管疾患、多発性硬化症の治療反応性等においてもZFATが関与する可能性が相次いで報告され、実際に想像を絶するZFATの機能がマウスモデルを用いて明らかになりつつあり、自己免疫疾患及び代謝性疾患などの多くの患者に将来役立つ成果が生まれるのではないかという期待が高まっています。これらのことは、ZFATが生命の発生、細胞生命プログラム、疾患発症を含む様々な局面において、重要な生命現象を規定する分子として機能している可能性を示唆しているものと考え、研究を展開しています。 私どもは福岡大学基盤研究機関先端分子医学研究所(FCAM)の中心的な役割を果たしつつ、若手研究者育成を行うとともに、KRAS, ZFATが関与する多様な生命現象の謎を紐解いていくことを目指しています。


RESEARCH/研究
< 研究概要 >

分子細胞生物学的解析、タンパク質・タンパク質相互作用解析、タンパク質・DNA相互作用解析、網羅的遺伝子発現解析を中心とした分子間ネットワーク解析とコンディショナル遺伝子改変マウス等を利用したin vivo解析・ex vivo解析を主たる解析手段とし、以下の二つの研究課題を中心に研究を展開する。
(1) ZFATの生体内での機能の理解に基づいた細胞生命プログラムの解明
ZFATは当該グループがGWAS解析により自己免疫疾患関連遺伝子として世界に先駆けて報告した転写制御分子である。これまでに、ZFATが胎児の初期発生、卵黄嚢血島における血球分化、および免疫担当T細胞の胸腺内分化および恒常性維持機構にZFATが必須の役割を担うことを独自に明らかにしてきた。本研究では、免疫系のT・B細胞、赤芽球系細胞、および ZFATのレポーターノックインマウスの樹立により判明したその他の組織・発生・分化段階におけるZFAT発現細胞を対象として、発生・分化などのプログラムにおけるZFATを起点とする細胞・生命プログラムの分子制御機構の解明を行い、生命科学研究の発展に資することを目的とする。
(2) KRAS分子が三次元環境特異的に制御する分子間ネットワークの解明
当該グループでは、癌における変異KRASに対する分子標的療法の可能性を世界に先駆けて報告し、その後もKRAS分子の機能に関して国際的な共同研究を多数実施し、重要な知見を発信し続けている。しかしながら、固形腫瘍において最も高頻度に存在する変異KRASそのものを標的とする分子標的薬はいまだ開発されておらず、さらに、臨床的に効果の高いEGFR阻害剤がKRAS変異を持つ癌には効果がないことが示された。そのような背景において、KRAS制御分子のin vivoにおける機能的解明とそれに基づく創薬標的の同定は臨床的視点からも重要な意義を持つ。独自に樹立した生体環境類似in vitro三次元培養システムを利用し、生体内におけるKRAS制御分子群の機能解明と分子間ネットワーク解析と、3次元環境における変異KRAS特異的なシグナル抑制化合物のスクリーニングを行い、KRASを起点とする腫瘍制御ネットワークの解明、および新規制癌剤の開発を行い、以て癌の先駆的治療法開発の基盤構築に資することを目的とする。
< 本年度の研究成果 >
1)ZFATの生体内での機能の理解に基づいた細胞生命プログラムの解明  
(1-A)末梢CD4+ T細胞におけるFoxO1タンパク質レベルのZFATによる制御
Zfatf/f-CD4Creマウスの末梢CD4+ T細胞において、転写因子FoxO1のタンパク質レベルが著しく低下していることを新たに見出した。FoxO1のmRNAレベルの低下は認められず、短時間のプロテアソーム阻害剤処理により、FoxO1タンパク質量が劇的に回復したことから、ZFAT欠損末梢T細胞においては、FoxO1のプロテアソームによる分解経路が亢進していることが明らかとなった。
(1-B)ZFATのDNA結合ドメインの解析
ZFATは18のC2H2タイプのジンクフィンガーと一つのAT-hookを有する転写制御因子であるが、NMRを用いた結晶構造解析により、いくつかのジンクフィンガーを介してZFATがDNAを認識し機能を発揮していることが示唆された。
(1-C)ZsGreen レポーターノックインマウスの樹立
ZFATの翻訳開始点にサンゴ由来の緑色蛍光タンパク質ZsGreenのcDNAを挿入したES細胞を用いて、キメラマウスを作製した。さらに、FLPeマウスと交配することでネオマイシン薬剤耐性カセットを除去後、C57BL/6マウスと交配し、ZsGreen レポーターノックインマウスを樹立した。戻し交配を進め、マウスのコロニーを増大している。フローサイトメトリー解析や凍結切片解析では、これまでに報告した胸腺、脾臓、卵黄嚢などの血球系細胞に発現が認められる以外に、マウス成体における精巣、網膜、大脳、小脳、および代謝調節においても重要な細胞等にも発現が認められ、現在、詳細な解析を進めている。
(1-D)マウス胎児の発生過程におけるZFATの機能解析
発生初期の胎児肝臓において、タモキシフェン投与による時期特異的コンディショナルZFAT欠損マウス(CreERT2-Zfatf/fマウス)の解析を行った。E6.5(胎生6.5日)以降のZFATの欠失により、マウスの胎児肝臓の大きさが小さく、貧血所見が示され、この時期における赤血球分化異常が示唆された。フローサイトメトリー解析等の詳細な表現型解析から、胎生12.5日~13.5日での胎児肝臓において赤血球細胞数の顕著な減少および赤血球の表面マーカーであるTER119の発現量低下が示された。また、ZFATのレポーターノックインマウスを用いた解析により、赤血球分化段階において、より未分化細胞でのZFATの発現が確認され、未分化細胞の段階からの異常によることが示唆された。今後、さらに詳細なZFAT機能解析により赤芽球系細胞における細胞生命プログラム解明へと繋げていく。
2) KRASの生体内での機能の理解に基づいたKRAS制御シグナルの解明と阻害剤の探索
(2-A)KRAS分子が三次元環境特異的に制御するシグナルの阻害剤の探索
変異KRASをゲノム編集にて欠失したHKe3細胞に野生型KRASを強制発現させたHKe3-wtKRASおよび、変異型KRASを強制発現させたHKe3-mtKRAS細胞を利用したin vitro浮遊培養系を構築した。このシステムを用いて、イギリス(グラスゴー大学)、およびロシア(ブロヒン癌センター)との国際共同研究により取得した新規PDE4阻害剤、さらには、理化学研究所より取得した天然物由来化合物コアライブラリーのスクリーニングを施行した。その結果、これまでに抗がん剤と考えられていない構造を有し、癌のみに作用し、正常組織には影響のないコア化合物と類似骨格を有する派生化合物をいくつか取得した(図1)。
(2-B)KRAS制御シグナルの解明
変異KRAS欠失細胞では、オートファジーに関連するATG3の発現が誘導されており、変異KRASがオートファジーを阻害することが悪性転化の一つの原因であることが示唆された。また、長鎖ノンコーディングRNAの一つであるANRIL、代謝関連分子KRAP、および細胞極性因子ALPK2などの変異KRASの下流の分子が細胞塊増殖、癌代謝や細胞塊凝集に関与することを示す結果が得られつつある。

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