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2023年の2週間の長期出張報告

北米3施設の見学と国際学会の参加報告

福岡大学病院 再生医療センター
吉松軍平

今回、私は 10月18日から10月31日までの2週間、国際学会の参加に合わせて北米3施設の膵島移植について施設見学を行ったので報告する。

今回の見学施設はカナダのエドモントンにあるUniversity of Albertaのclinical islet lab.、米国のテキサス州ダラスにあるBaylor University Medical Center(BUMC)のislet lab.、同じく米国のバージニア州リッチモンドにあるVirginia Commonwealth University(VCU)のislet cell transplant lab.である。最初に訪問したアルバータ大学は、かの有名なEdmonton protocolを生み出し、現在の同種膵島移植が世界中に広まったきっかけとなったNew England Journalに論文発表した膵島業界では有名な施設である。今回、私の訪問は短期間であったが、偶然にも若年脳死ドナーからのclinical islet isolationがあり、運よく参加することができた。百聞は一見に如かずの言葉通り、おそらく話を聞いただけでは理解しきれなかったであろう多くのことを学ぶことができたのではないかと思う。詳細を書くにはあまりにテクニカルな部分が多く、膵島オタクにしか通じない内容ばかりになるため割愛するが、数多くの膵島分離をこなしている施設だけあって、非常にシンプルでシステマチックなislet isolationであった。特に、カウント用の顕微鏡とpurification用のCOBEが2台ずつあり、同時並行で2回の膵島カウントとpurificationが行われるのには驚いた。日本の狭いCPCでは取り入れにくいが、CPC拡張の折にはぜひ実現したいものである。


アルバータ大学は、世界で最も多く膵島移植を行っている施設である。
左:消化の工程 右:顕微鏡で消化膵島のチェック

次に訪問したのは私が以前留学していたBaylor University Medical Centerである。今回の主要な目的は、世界的にRoche社のLiberase MTFが手に入らなくなった状況下で、どのコラゲナーゼミックスを選択し、実際にどのように使用しているかを調査することであった。彼らはServa社製の CollagenaseとNeutral proteinaseを使用し、私が所属していた頃(当時はRoche社製のLiberase MTF)と変わらぬ十分な膵島収量を得ていた。VitaCyte社製の製品を使用しているものとばかり思いこんでいたため、意外ではあったが彼らなりの考えを元に選択していたようである。日本での膵島移植の現状についてもdiscussionをして、その中で今後日本でも慢性膵炎に対する膵全摘自家膵島移植のclinical trialが始まることについて、とても喜んでくれていたのが印象的であった。この2施設の訪問で話題に上がったのは、米国糖尿病学会で報告のあったVertex社の幹細胞由来インスリン産生細胞の移植による1型糖尿病患者の治療報告についてであった。今のところは、慎重にその結果を追ってみていく必要があるとはされているものの、実際にインスリン離脱を成しえた症例もあり、今後の動向が注目されるところである。また、Dr. Naziruddinによると、これまで米国では同種膵島移植はFDAの規制により行われてこなかったが、Bio-License agreementの取得が行われ、シカゴの施設が米国唯一の同種膵島移植のためのislet isolationを行い、shippingすることができるようになったとのことである。こちらも、今後の動向が注目されるところである。後日談として、LAの膵島移植施設のDrとの話でallo-transplantationの話が出たので、BLAがないのになぜできるのか聞いたところ、保険で行うにはBLAが必要だが、研究費や寄付金などで行う分には実施可能とのことで、FDAの規制自体、まだ確固たるものではないようであった。


BUMCの現在のメンバー達。
現在の膵島分離工程や研究内容について話し合った。

最後の見学施設はVCUである。かつてBUMCで膵全摘自家膵島移植の手術を推し進めた腕利きのSurgeonであるDr. Marlon Levyが率いるチームである。現在、Dr. LevyはVCUのNo.2として勤務しており、Transplant部門だけでなく大学全体を管轄している。私の訪問した数日前にはResearch islet isolationがあり、今回初めてのIntegrated Islet Distribution Program (IIDP)登録下でのislet shippingが行われている最中であった。私もそのshipping業務のお手伝いをしつつ、Lab. directorのDr. Mazhar KanakとIIDPのプロトコールについてのdiscussionを行った。IIDPは、日本でいうところの研究転用のためのislet isolationの実施と、研究施設への分配を行うためのprogramである。IIDP登録によりculture stepの標準化が行われており、culture mediaの使用感や、今後clinicalでの移植に際してどのように彼らがプロトコールを修正しようとしているのかについて非常に興味深いdiscussionとなった。現在、日本でも膵島の研究転用の可否についての話し合いが行われており、今後の日本の状況と合わせて何が必要なのかQuality assurance/Quality controlの点からも大変勉強になった。


左上:VCUの外観
右上:Cell Processing Center内の見学
左下:VCUのclinical islet lab.のメンバー達

3施設の訪問を終えた後、San Diegoに移動しIPITAに参加した。小玉正太教授、坂田直昭先生とSan Diegoで合流し、3人で参加したのだが、この3人での国際学会の参加は、4年前のフランスのリヨンで行われた2019年のIPITA、同じく4年前の韓国で行われたアジア膵臓・膵島移植学会以来3度目である。この学会は、2年に1回行われる膵臓移植と膵島移植の国際学会で、私たちの専門領域において最も重要な学会である。世界中から膵島移植、膵臓移植に関わっている臨床医、研究者、企業が一堂に会して4日間、文字通り朝から晩まで語り合う非常に密度の濃い学会である。特に前回の2021年はCOVID-19のpandemicによるwebsiteでの開催であったため現地開催は4年ぶりとなり、さらには、4度目のIXA(国際異種移植学会)、CTRSM(国際細胞移植・幹細胞治療学会)との合同ミーティングであったため、異種移植や幹細胞治療などについて非常に興味深い演題が多く、充実した学会参加となった。今回およそ30カ国から600名の参加者がいて、約半数は米国以外からの参加であった。Lunch、networking dinnerで、こういった世界中の医師、研究者と語り合うことができるのも大きな醍醐味である。以前行われていたencapsulationや細胞表面加工による免疫回避など、数年前に一度下火になったかのように感じた研究が、昨年に米国で実施された遺伝子改変ブタからヒトへの異種心臓移植や腎臓移植を背景に再び脚光を浴びて、多くの研究成果がより現実に近いものとして活発にdiscussionされていたことは非常に興味深かった。また、これまで行われてきた臨床膵島移植ついて、同種、自家それぞれ長期成績の点から発表が行われ、10年、20年といったかなり長期の生着がみられていることが分かった。これは、2005年にアルバータ大学で報告された長期成績への不安を払拭する重要な報告である。福岡大学からは、坂田直昭先生から異種移植に向けたブタ膵島の至適培養条件の検討と、特定の培養条件下での膵島内支持細胞のβ細胞への分化誘導遺伝子の制御についての発表が一般口演で行われた。また、私は福岡大学で2006年から行われた膵島分離成績について特に至適ドナー選択の視点から解析を行い同じく一般口演で発表を行った。発表した翌日にケンタッキー州の膵島分離施設を率いている先生に、良い発表だったよと廊下で声をかけられたのは非常にうれしかった。膵島分離には多くの工程があり、何が膵島分離成功に関わるのか分かりにくいところだが、ドナーセレクションが一つの重要な鍵であることを、その先生も別のセッションでお話ししていたので共感してくれたのだろう。発表した当日は緊張がほぐれて、ようやく小玉教授、坂田先生の3人でゆっくりと夕食をした。とはいえ、膵島移植に熱いこの3人が集まると、話のほとんどは膵島の話となるのだが、リラックスして学会でのトピックなどそれぞれ感じたことなどをゆっくり話し合えるのは、大学業務から遠ざかることのできる海外学会ならでは充実した時間である。


学会は朝7時半から開始。朝焼けを見ながら会場へ。


30か国、600名が参加。     

今回の出張は、COVID-19 pandemicによる3年間のブランクを埋めるため、長期の出張となり、それでもできるだけ多くのことを学びたいと少し欲張りすぎた感もある。おかげで、2週間の間にミッドナイトフライトを含めて11フライトをこなすという、かなり強硬なスケジュールとなったが、なんとか大きなトラブルなくこなすことができて自分でもほっとしているところである。今回の学びを明日からの膵島移植に生かすべく、決意を新たに帰国の飛行機の中でこの文章を記載している。そのため勢いに任せて少し読みにくい文章となってしまっているが、その点についてはお許しいただきたい。最後に、このような長い出張の許可を出していただいたうえに、忙しい業務の中で見学施設へのrecommendation letterを書いてくださった小玉教授、出張中の業務サポートをしていただいた坂田先生、田村さん、江崎さんをはじめ教室員の皆さんに感謝申し上げます。本当にありがとうございました。


合計11回のフライトをこなし、北米3施設の施設訪問と学会に参加。