第7回 教授の独り言(2021.10.)
少し背伸びした課題に取り組もう
科ではクリニカルクラークシップ(臨床実習)に回ってくる学生さんたちに、毎回New England Journal of Medicineというトップジャーナルの抄読会を課題にしています。これはコロナ禍で臨床実習を一時的に中止せざるを得なくなった時に、私がお世話になっている、ある大学の教授から声をかけてもらって合同オンライン実習として始めたものです。マサチューセッツ総合病院のカンファレンスで取り上げられた教育的な症例がシリーズとして掲載されるので、それを読んでもらい内容をまとめてもらうのです。それまで、私自身はオンライン授業など考えたこともなかったのですが、この方法であれば福岡大学に限らず、他大学の学生さんたちと勉強会をすることが出来ます。パワーポイントにまとめて互いに発表しあうスタイルです。私ども教官が司会やコメントを担当します。現在、臨床実習は制限が付きながらも再開していますが、この取り組みは続けています。
学生さん達には重い課題かもしれませんが、私はいくつかの意図を持っています。まずは、英語の論文にアレルギーを起こさず、食わず嫌いになって欲しくないということです。若く柔軟な時に、英語の論文を読むクセをつけておかなければ、最新の情報を得ることが出来ません。それは結局のところ患者さんのお役に立てないということになります。繰り返し論文を読んでいるうちに、研究に携わりたいという気持ちも湧いてくるでしょう。次に、自分には到底できないと思っていたことが、少し努力するだけでクリアできることを体験してもらい、自身の持つ潜在的な力に気づいてほしいということです。毎回、学生さん達は立派にまとめてきてくれますし、私の知らなかったことも勉強して教えてくれます。また、他の大学の学生さん達の発表を聴く、そして自分達の発表を聴いてもらうことはかけがえのない経験になっていると思います。最後に、忙しい臨床実習の合間に調べ物をしながら複数のタスクをこなす訓練になればという願いも込めています
これは、将来の仕事にも通じることです。医師になれば、診療だけをやっていれば良いわけではありません。大学病院に限らず、どの医療機関であっても、組織の一員である以上は多くの会議、部署間の調整や事務的な作業に従事しなければなりませんし、学会発表や論文作成も進めていかなければなりません。限られた時間の中で、仕事の配分を決め、業務目標を達成する経験をしてもらえたらと思っています。学生時代には分からないかもしれませんが、自分に手の届く範囲のことだけをするのではなく、自分の実力では到底及ばないと感じる課題を与えられた時が成長するチャンスだと思えると良いですね。大げさかもしれませんが、艱難辛苦汝を玉にす、といったところでしょうか。レクチャーの際に、赤字でいっぱいにメモが書き込まれた課題論文を手にする学生さん達を見るたびに、微笑ましく小さな喜びを感じています。