福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科学講座

第8回 教授の独り言(2021.11.)

ノートを作る

さて、今回はまた私の研修医時代の話に戻りたいと思います。皆さんは自分が貴重な症例や、救急対応を経験した時に、どのように記録していますか?今の学生さんや研修医の皆さんはスマホやタブレットを駆使している世代ですから、そういった機器を利用しているかもしれませんね。私が医者になった頃にはそのようなものはありませんでした。小さなノートを買って、そこに様々なことを書き込んで、いつも白衣のポケットに忍ばせ持ち歩いていました。実は、ずっと捨てることが出来ずに今でも私の教授室の本棚に保管してあります。病棟でのルーチン指示(入院患者さんの不眠時の投薬、発熱時の指示など)から、喘息の急患が来た時の点滴方法、急性心筋梗塞が発生した時の対応、血圧が低下した人にカテコラミンを持続静注する方法、副腎クリーゼの対処方法、糖尿病ケトアシドーシスの時の輸液やインスリン調整方法、低血糖の患者さんが救急車で運び込まれた際のブドウ糖注射方法など、具体的な薬品名、投与量など細かく書き留めていました。その一部を写真でご紹介します。私は大変な悪筆なのですが、この頃は今よりも字がきれいだったことに驚かされます。いずれも教科書には書かれていない、私にとっての最も実践的な治療マニュアルでした。今では古くなって通用しない治療もあるかもしれませんが、エッセンスは変わっていないはずです。同じような症例が次に来た時に、とりあえずの処置をやっておいて、先輩医師が来るのを待てる研修医になろうと思って虎の巻を作っていました。何しろ、何も教えられていないのに「なんで俺が来るまで何もやってないんだ!」とひどく怖い指導医もいて、指示を待ってから動くのではダメだと叩き込まれたことが大きかったです。「確認せずに勝手なことをするな!」と怒られたこともありますけどね。料理のレシピのようなものですが、皆さんも自分の“型”を作っていくためにノートを作ってみては如何でしょうか。充実した研修になることを願っています。

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