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ダラス留学記

2004年より安波洋一教授の下、大学院生として膵島移植の研究を開始した。 折しも、同年4月に日本で第一例目となる臨床膵島移植が松本慎一先生率いる京都大学チームにより施行された。 膵島移植の研究を始める年に、日本で臨床膵島移植が開始されたという絶妙なタイミングであった。 2006年11月の福岡大学における第一例目臨床膵島移植に膵島移植チームのメンバーとして、臓器摘出・膵島単離・膵島移植の行程すべてに携わることが出来た。 このインパクトは自分の中で非常に大きく、アメリカ留学の最大の動機となったといっても過言でない。 大学院4年間、ポスドク1年間の5年間を福岡大学 再生・移植医学講座で過ごした後、2009年5月よりアメリカ、テキサス州ダラスにある、 Baylor University Medical Center, Baylor Research Institute, Islet Cell Transplantation Laboratoryに留学することになった。 ここは、先述の松本慎一先生がPIのラボで、臨床膵島移植(allo-transplantation, auto-transplantation)、膵島移植の基礎研究を行っている。

まず簡単にダラスを紹介しようと思う。 ダラスの緯度は大分・長崎と同じくらいであり、福岡より若干南に位置する。 ダラス市はフォートワース市と合わせて一大都市圏を形成しており、人口500万人ほどの比較的大きな都市である。 一昔前までは石油で潤い、現在はIT企業などの本社も多数有り活気のある街である。治安に関しては、夜中にあえて危険といわれる地域に行かず、当たり前の生活をしていれば不安を感じることは少ない。 確かに、病院や大学、公共施設等の入り口には銃持ち込み禁止のマークが至る所に貼ってあるが・・・。 テキサスといえば砂漠と勝手に決め込んでいたが、今のところ、ダラス-フォートワースで砂漠を目撃していない。砂漠どころかダラス中にたくさんの湖・池が点在している。 これらの湖の殆どは100年程前の都市計画で人工的に作られた物らしい。また、緑も豊かで最初に抱いていた印象とは違っていた。気候は年中暑いと勝手に想像していたが、半分は当たっていた。 夏は連日40℃を超す日が続いた。自分は日本で日光浴が好きな方だったが、この暑さはさすがに閉口した。気候に関する印象が外れた部分は、冬が寒いということだった。12月に入り降雪、朝は氷点下という日を経験している。 1年間で氷点下を記録する日が30日程あるようで夏は暑い、冬は寒い典型的な内陸性の気候のようである。が、住めば都とはよく言ったもので、ダラスでの暮らしを大変気に入っている。

肝心の膵島単離・移植について少し述べようと思う。 Baylor islet team は年間、リサーチ用膵島単離が約20例、auto-transplantationが約10例、allo-transplantationが数例行われている。 平均すると2週間に1度のペースで膵島単離がある計算になる。 5月9日に渡米し早速翌日の10日、その翌週もリサーチ膵島単離があり、赴任早々に膵島単離の機会に恵まれた。 テキサス州では、日本からの留学者(日本の外科医)が膵島移植用にドナーから膵臓を摘出して良いという許可が州より出ており、実際に自分たちで膵臓を摘出できる。 ダラス-フォートワース近郊でドナーが出たときは自分の車で、それ以外の地域で出たときは、肝臓・心臓チームと共に小型ジェット機で現地に向かい摘出している。 日本でもそうであったが、こちらでも24時間いつ呼び出しを受けるか分からない生活を送っている。 さすがに、夜中に出動するときは日本よりも断然スリルがある。(得てして夜中の呼び出しが多い。)知らない道はなるべく使いたくないが、提供病院の場所によっては仕方ないので、祈るような気持ちで出動することもある。 しかし、一年中呼ばれるというわけではなく、例年12月24日から1月1日の間は完全に割り切って移植が closeされるので、メンバーはこの時とばかりにダラスを離れ、バカンスに行く。 自分も現在、クリスマスバカンスで訪れているメキシコ・カンクンでこの原稿を書いている。 さて、少し脱線してしまったので話を戻そう。
Baylor islet teamの単離技術は高く、膵島単離回数に対する移植の割合が高く、ほぼ全ての症例で1回の移植後、一旦はインスリン治療から離脱できる。 これは、単離膵島の収量が多くかつ質が良いことを表している。しかし、移植後2~3年でインスリン治療が再開される症例もあり、更なる改善・研究が必要と思われる。 日本と比較して、こちらではヒト膵島単離・移植を多く経験できるだけでなく、ヒト膵島を用いた基礎実験が出来る。このadvantageを有効に利用し、しっかり経験を積み、研究成果を出していきたいと思っている。

最後に、アメリカに来て実際にこちらに住んで、働くことによりアメリカの良い面・悪い面を色々経験できている。 また、日本を離れて、遠くから日本を見ることで今まで気づかなかった日本の良い面・悪い面を実感できている。 このことは自分にとって、かけがえのない経験だと思っている。福岡大学 医学部 再生・移植医学講座に属し、このような機会に恵まれたことを心より感謝し、この留学記を終わりたいと思う。

   

文責  伊東 威