教室紹介
留学情報

留学を終えて

平成19年卒の高橋宏幸です。福岡大学再生・移植医学教室で4年間の大学院生を終えたのち、2年半にわたる米国留学生活を経験し帰国しましたので報告いたします。

私は大学院卒業と同時に、再生・移植医学講座の小玉教授の紹介によりMassachusetts General Hospital and Harvard Medical Schoolに所属し、PIであるDr. Fasutman主催のDepartment of Immunobiology LaboratoryでPostdoctoral fellowとして研究生活を送りました。気持ちを昂らせ、メンバー達の前で辿々しい英語で自己紹介したことを昨日のことように鮮明に思い出すことができます。

私の所属した研究室についてですが、免疫学の研究を多数手がけており、自己免疫から腫瘍免疫まで免疫学全般を広く扱っておりました。中でもBCGを使用した1型糖尿病治療が最もHotなプロジェクトで、実際に研究室主導でPhase2の臨床試験を進めており、全米から患者さんが集まってきておりました。血糖値改善のメカニズムを明らかにすることを目的として、私は患者さんの血液を採取し、単球やリンパ球などのsubsetに分けてglucoseの取り込みの変化やmRNA、DNA methylation patternの経時的変化を解析していく中で、BCG接種後にヒト末梢血CD4+ T細胞がepigeneticな変化を介してTregに分化していくことは大変興味深い発見で、さらにCD4+ T細胞におけるTCR/CD3発現の亢進、及びその下流シグナルの活性化を明らかにすることができました。また研究室ではCOVID-19に対するBCGワクチンの臨床効果なども調査しており、時世に応じた重要な研究が行われており、世界を牽引する重要な研究室であり同研究室で勤務できたことは非常に貴重な経験となりました。私個人の研究についてですが、TNF/TNFR2シグナルをターゲットにした癌免疫療法の研究を中心に行っておりました。ご存知のようにTNFR2は正常では限られた細胞にしか発現していないのですが、癌微小環境下では癌細胞をはじめ、Tregなど様々な構成細胞においてその発現が亢進しています。私達は様々な細胞株の遺伝子操作により、癌細胞とTregを同時かつ有効に殺傷しうる抗TNFR2抗体の作成に取り組んでおりました。こういった研究では実際の患者さんのサンプルを使うことが多いのですが、それらが比較的簡単に手に入るのは、超一流の研究施設であったことだけでなく、米国一般市民の多くが社会貢献に積極的だからなのだということを知り驚きました。研究留学中には、マウスを含めたたくさんの実験を行ったのですが、こういった実験手技であまり困ることがなかったのは、再生・移植医学講座で4年間みっちりご指導戴いた賜物だなと実感しました。その甲斐あって、幸い幾つかのプロジェクトはデータが出揃い、論文発表することが出来ました。

現在の私は臨床の現場に復帰し、有難いことに毎日忙しい日々を過ごさせていただいております。日付が変わって自宅に帰ることもざらですが、そのような中、自宅に飾ってあるボストンのお土産を目にすると、ほっとした気持ちになります。臨床医として再スタートを切ったばかりで正直なところ全く余裕はないのですが、この留学経験を生かして、少しでも教室の発展や医学の進歩に寄与できればと思っております。

最後にこのような素晴らしい機会を与えて下さった小玉教授、長谷川教授、そして英語の不得手な私を我が子のように可愛がってくれたDr. Faustmanに心より感謝申し上げます。

2021年11月
髙橋 宏幸

ボストン留学記

Massachusetts General Hospital (MGH) の高橋宏幸です。私は2年間の初期臨床研修後に福岡大学消化器外科学講座に入局し、7年間の外科研鑽を経て再生・移植医学講座で研究生活を開始いたしました。4年間の充実したご指導のお陰で無事博士号を取得でき、2019年の4月からこちらで留学生活を送っております。早いもので1年と6ヶ月が過ぎてしまいましたが、相変わらす英語が上達せず、諦めに似た気持ちでいる今日この頃です。

私が所属しているMGHはアメリカのボストンにありますHarvard Medical Schoolの中でも最大の関連施設で、通称Navy Yardと呼ばれる綺麗な湾港地区にその研究施設があります。福岡大学病院からも断続的ではありますが、留学生を受け入れてもらっています。ボストンはアメリカの北東部に位置する500万人が暮らす大都市圏の中心です。1600年代初頭にイギリスからのピューリタンが入植して繁栄し、1700年代末期には独立戦争の舞台となった、いわばアメリカ発祥の地でもあります。大西洋に面しておりますので、牡蠣やロブスターなどの海鮮物が美味しく、またメジャーリーグ、アメリカンフットボール、バスケットボールやアイスホッケーなどのスポーツだけでなく、ボストン美術館やボストン交響楽団の拠点であるシンフォニーホールなど、ニューイングランド地方の文化の中心でもあります。私はボストン郊外のアーリントンに居を構え、毎日車で通勤しています。物価は高いですが、緑が多く、高齢者・子供・障害者、そして私のような外国人にとても親切で、大変暮らしやすいところです。

私の所属するImmunobiology LaboratoryはPIであるDr. Denise. L. Faustmanを筆頭に、癌や自己免疫疾患を対象とした免疫の基礎的な研究を行っています。現在、最もHOTなのが1型糖尿病に対するBCG治療で(日本から輸入したものを使っています)、現在ラボ主導のPhase 2の臨床試験がアメリカ全土で進行中です。私自身は直接医療行為はできないのですが、短期間で数多くの臨床検体を採取でき、様々な解析を行うことができるのは、やはり世界有数の研究施設だけあるなと感心しております。またボストンにはMITやBoston University、Tufts Universityなど錚々たる研究施設が集中しているせいか、世界有数のバイオ関連企業があちこちに存在し、日本から注文すると数ヶ月かかるような試薬が1-2日で届いてしまいます。一流科学雑誌のeditorやreviewerも大勢働いており、自然と研究が捗る環境にあります。

ご存知の通り、昨今のCOVID-19はここボストンでも猛威を奮っています。幸い私を含め、家族・知人に感染者はいないのですが、生活にも色々制限が出ています。留学2年目になったら全米各地に旅行に行こうと画策しておりましたが、楽しい予定が尽く実現困難な状況になってしまいました。最近はこれにBlack lives matter運動が加わり、アメリカ全体が不安定な状況にあります。しかし帰国を余儀なくされる日本人研究者も大勢いる中で、こうして健康で留学が続けられるだけでも大変有り難いことなのだと感じております。必ず結果を出して帰りたいと思います。

最後に、このような素晴らしい機会を与えて下さった小玉正太教授、そして留学に際して多大な援助をして下さった教室員・同門会の皆様方に心より感謝申し上げます。


一番右下がDirectorのDr. Faustman


ボストンの街と海


MLB行きたいなあ(去年の写真です)


クリスマスには本物のツリーを飾ります


紅葉の時期のMohawk Trail


NYにも車で4時間で行けました

2020年10月
髙橋 宏幸