平成24年度より、医学部4年生に対して総合診療部部長が科目責任者となり「症候病態学演習」を講義している。これは、学生の医学知識を発展させ、より実践的な診断・治療の過程を修得するために、一般的疾患の症候とその病態を理解し、今後臨床実習に必要な診療態度を身に付けることを目的としている。具体的には、内科を中心として、精神科、小児科、皮膚科、高齢医学、東洋医学の主要症候を、実際の診療に沿った形で学生にグループ討議させ、理解を深めていく方法をとっている。例えば、「発熱」「失神・意識障害」「頭痛・めまい・嘔気」「電解質異常」といった具合である。特色は、その症候に関する症例を講義者が提示し、質問を課し、学生を10のグループにわけてそれぞれ討論させることである。このことにより、診断に至る過程を、グループで討議しながら学習することが出来る。
平成25年度より5年生に対してBSLが開始される。ここでは、総合診療部の病棟実習と共に、初診外来での研修を重視し、実際にどのような仮定を経て診断が決定されていくかを学ぶことになる。また、少人数でのProblem-based learningを行い内科診断学を学んでもらう予定である。なお、すでにスーパーBSLや研修医に対しては数年前より同様の実習を行い、成果を上げている(福岡大学病院における研修医の初診外来研修と自己評価 / 鍋島茂樹他 医学教育 40:457, 2009)。
総合診療医学は発展途上の学問であり、一般診療科と異なり、いまだ共通した医学教育概念は完成していない。しかし、全国医学部長病院長会議の提言にあるように、総合診療医学部門が地域の中小病院、診療所、僻地の臨床現場との機能的なネットワークを構築し、診療に学生を参加させ、現在の臨床現場で何が問題となっているか、どのような患者を診療しているかの理解を深めることが大切である。また、外来診療や、訪問診療、小外科などに関する教育技法を開発していくとともに、すでに地域医療に従事している医師に対しても、何らかの情報提供や教育を行っていくことが必要である。現在行っている「症候病態学演習」に関しては、より良い講義方法になるよう工夫し、学生には症候学の視点から医学を理解させていくことが重要である。いずれにしても、今後地域で活躍する医学生あるいは現在活躍しているプライマリ・ケア医師に対する教育や情報提供が重要な業務であり、研究テーマとなるであろう。
■福大病院総合診療部沿革
平成17年に総合診療部が設立され、設立当初はわずか二人でしたので内科外来の一角で初診患者を診療し、研修医の外来研修を行っていました。4年目に病棟を持つようになり、次第に入局者もふえてきました。数年前より、研修医やBSLの受け入れを開始し、文科省の科研費も2回連続で獲得するようになりました。さらに二次救急診療を行う急患診療部(ACC)が設立され、循環器内科や消化器外科とともにそこに参加するようになりました。今もって厳しい運営状況ですが、多くの方々のご支援でここまで続けられたと思います。