診療を受けられる方へ

用語解説

悪性度

癌は進行すると命に関わる病気ですので悪性疾患と言われます。癌の増殖能の高さを、悪性度といい転移や再発に関わってきます。悪性度の高い癌は、よく「顔つきが悪い癌」と表現されます。悪性度の高い場合には、早期に転移や再発が起こる可能性があります。顕微鏡検査でのグレード3、Ki67 30%以上は、悪性度が高い癌ですので抗癌剤治療を検討します。

遺伝子検査

細胞の中の核にある遺伝子を調べることで、癌を含めて病気の細胞の遺伝子を調べることは既に診断や治療の一部で行われています。正常な細胞(体細胞や生殖細胞)を調べて、将来の病気の可能性を予想することも研究されています。本人だけの問題に留まらず、家族の将来にも関係して来ますので、十分なカウンセリングを行う必要があります。倫理的な問題も含めて、社会としてどう対応してゆくのか重要な課題です。遺伝性乳癌を疑う場合に、血液や口腔粘膜検査でBRCA遺伝子変化を調べることができます。(保険適応外)

遺伝子治療

遺伝子は全ての細胞の中の核にあり、遺伝子によって細胞が作られ働きを持ちます。癌は遺伝子の異常が重なることにより起こります。例えばこの癌細胞の中の異常な遺伝子を正常な遺伝子と置き換えたり、癌細胞だけが死んでしまう遺伝子を挿入する治療法を遺伝子治療と言います。
臨床試験が行われていますが、一部の癌に対して有効な報告があるのみで、まだ一般の治療として多くの癌患者さんに使える方法にはなっていません。

インフォームドコンセント

医療スタッフが治療について、その目的、方法、成績、副作用や合併症などの危険性、他の治療法などを十分説明して、患者さんと情報を共有して合意することです。

オーダーメイド(テーラーメイド)治療

個別化治療のことです。各個人の癌の組織型、病期はもちろんのこと、癌で起きている遺伝子異常による変化(癌細胞や周囲の細胞の変化、あるたんぱく質の過剰出現など)を調べて、それに基づいた治療法を行います。乳癌は研究が進み、患者さんにより癌の性質が違っていることがわかってきました。それぞれの患者の癌で最も有効と考えられる治療法を選択します。現在乳癌では、病期やサブタイプにより治療方針を検討します。さらにゲノム情報に基づいたオーダーメイド治療は、プレシジョン医療と呼ばれています。

クオリティオブライフ(QOL)

治療後の生活の状態です。現在は命さえ助かればよいと言う考えではなく、治療後にいかにその人にとって有意義な生活を過ごすことができるかを、考えた治療が求められるようになってきています。治療前の生活レベルをできるだけ、下げないようにすることが目標です。

ゲノム医療

ゲノムとは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)から合成された言葉で、DNAに含まれる遺伝情報全体です。その情報を網羅的に調べ、より効率的・効果的に病気の診断と治療などを行うのがゲノム医療です。ゲノムを調べるのに以前は多くの時間と特別の解析機器、莫大な費用がかかっていましたが、技術は急速に進歩していますので、近い将来には癌を始め多くの病気の診断と治療に使われるようになると考えられます。

サブタイプ(subtype)

乳癌を癌細胞の性質によって分けたものが、サブタイプです。元は遺伝子解析により分類されたものですが、簡易的には癌組織を採取して、免疫染色法によりホルモンレセプター(エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター)、HER2、増殖因子(主にKi67)を調べることで分類します。
主に下記の4つに分けます。

サブタイプ ホルモン感受性 HER2  
ルミナルA 陽性 陰性 Ki67低値
ルミナルB 陽性 陰性 Ki67高値
陽性  
ハーツー 陰性 陽性  
トリプルネガティブ 陰性 陰性  

それぞれのタイプにより治療反応性や経過が違って来ます。そのためタイプにより、主として薬物治療法が変わって来ます。
ルミナルAタイプの乳癌は、最も頻度が多く主にホルモン療法が行われます。大きな癌や、リンパ節転移の数が多い場合には、抗癌剤治療を加えます。
ルミナルBタイプの乳癌は、HER2陽性の場合にはハーセプチンと抗癌剤治療が行われ、その後にホルモン療法となります。HER2陰性の場合には、抗癌剤を投与する場合には先に抗がん剤を投与した後にホルモン療法となります。Ki67とは細胞の増殖能の指標のひとつで、数値が高いと再発転移の可能性が高くなります。
ハーツータイプの乳癌は、ハーセプチンと抗癌剤治療が行われます。ハーセプチンが使われるようになって、再発する患者さんが減っています。
トリプルネガティブタイプの乳癌は、ホルモン療法やハーセプチンの適応がないため、抗癌剤のみが適応となります。
再発乳癌の場合にも、原則これに則って治療が計画されます。

女性化乳房

男性乳腺の肥大で、癌化することはありません。生理的にも12〜20歳、50歳以降でホルモンバランスにより乳腺が腫れることがあります。薬の副作用(循環器系薬剤など)や肝機能障害により肥大することがあります。圧痛を伴うことが多いです。ほとんどの場合は、経過観察で済みます。

セカンドオピニオン

治療法を決定するために他の医師や医療施設の意見を聞くことです。基本的には病院を移ることを前提とした受診ではなく、元の病院に意見を持ち帰って、担当医と治療法を相談します。
病理検査結果やレントゲン写真などを借りて行くと良いでしょう。

線維腺腫

若年女性に最も多く見られる乳房腫瘍です。15〜30歳に好発し、境界明瞭なよく動く腫瘤として触れます。多発することや急に大きくなることもあります。大きさが2cm以上、乳癌や葉状腫瘍が疑われる場合には摘出を検討します。閉経後には小さくなっていきます。

センチネルリンパ節生検

癌が一番最初に転移をきたす可能性の高いリンパ節のことを、センチネルリンパ節(見張りリンパ節)と言います。このリンパ節に転移がない場合、その他のリンパ節には転移が無い可能性が高いと考えられています。早期の乳癌の場合、センチネルリンパ節生検を行うことでセンチネルリンパ節に転移がなければ、腋窩リンパ節の郭清を省略します。センチネルリンパ節を調べる方法としては、主に色素法とRI法(放射性物質を使用)があります。

多遺伝子解析(multigene assay)

生検や手術により切除された癌細胞の中の複数の遺伝子を解析して、癌の性質、治療反応性や 予後を調べるものです。従来の病期分類やサブタイプよりも、診断や治療に有用な情報が得られると報告されています。海外で開発されたOncotype DXやMammaprintが有名ですが、まだ日本では保険適応になっていません。
今後日本でも、一般的に行われるようになると思われます。

男性乳癌

男性も乳腺組織がありますので、乳癌が発生することがあります。頻度は女性の1%以下で、60歳以降に好発します。乳頭付近のしこりで見つかることがほとんどで、女性化乳房と違い多くの場合圧痛は伴いません。女性乳癌と同じように診断、治療が行われます。

トリプルネガティブ(triple negative)

乳癌のサブタイプの中でホルモンレセプター陰性(エストロゲンレセプター陰性、プロゲステロンレセプター陰性)かつHER2陰性の場合を、トリプルネガティブと呼びます。ホルモン療法や抗HER2剤(ハーセプチンなど)の適応がないため、薬物治療としては抗癌剤のみが適応となります。抗癌剤の反応が良い場合もありますが、反応が悪い場合には、手術後早期に再発し  予後不良な患者さんが含まれます。このグループはさらに分類されると考えられ、世界中で治療薬(PARP阻害剤など)の研究が行われています。

乳管内乳頭腫

乳管内にできる良性腫瘍です。30歳以降に好発し、多くは血性乳頭分泌が唯一の自覚症状です。非浸潤性乳管癌との鑑別が必要になります。

乳腺症

30歳代後半より閉経前後に起こる乳腺の良性変化です。乳腺組織の増殖や萎縮をきたした状態で、女性ホルモン(エストロゲン)による変化です。痛みや硬結が多く、稀に血性乳頭分泌をきたすこともあります。月経前に増強し、月経後に軽減することもあります。ほとんどの場合は経過観察で済みますが、乳癌との鑑別が難しいこともありますので、自己判断せずに専門施設で検査を受けましょう。

乳房再建

乳房を癌の治療のため失った患者さんが、術後のクオリティオブライフを考えて再び乳房を作る手術です。
自分の脂肪や筋肉を使って作る方法(自家組織)と人工の袋を入れて作る方法(インプラント)があります。乳癌の手術の時に作る方法(一次再建)と乳癌の手術後しばらくして作る方法(二次再建)とがあります。現在では健康保険の適応になりました。
少しずつ再建する患者さんが増えてきています。迷っている方や詳しく知りたい方は、積極的に相談して下さい。福岡大学病院では、形成外科が乳房再建の手術を担当します。

妊娠と乳癌

妊娠、授乳中は乳房が大きくなっていますので、当然小さな乳癌は見つかりにくくなります。しかし妊娠自体が乳癌を引き起こしたり、悪くすることはないと考えられています。妊娠中に乳癌が見つかった場合には、妊娠周期を考えて治療法を決定します。乳癌の治療で化学療法やホルモン療法中の人は薬の影響がありますから、妊娠しないように注意して下さい。もし妊娠希望の場合には、担当医と相談してください。抗癌剤治療を行った場合には、閉経してしまう可能性があるため、妊娠希望の人は抗癌剤治療前に受精卵や卵子の凍結保存する方法が行われるようになっています。(保険適応外)

標準治療

多くの病気に対して科学的に (臨床試験において) 治療効果や安全性が確認された治療法の中で、最適なものが標準治療として国内あるいは世界的に認められます。癌の場合、癌の種類やサブタイプ、病期によって標準治療は異なりますし、時代によっても変わってきます。標準治療では十分な効果が見込めない場合や、まだ標準治療が確立していない場合は、臨床試験を行うことにより新たな標準治療が作られて行きます。標準治療は、普通の治療という意味ではなく、現在提供できる、最も信頼できる治療です。‘最新治療’と言われるものも、その後に検証され認められていけば、標準治療になります。

分子標的治療薬

癌細胞に特異的に存在する分子や抗原を狙い、その機能を阻害することで癌の増殖を抑える薬剤です。抗癌剤やホルモン療法剤と併用することが多く、従来の抗癌剤やホルモン療法剤による 治療成績より優れた効果が期待できます。しかし薬価が高価で、投与前に効果予測が必ずしもできないことが問題です。乳癌で主に使われる薬剤として、ハーセプチン、パージェタ、カドサイラ、タイケルブ、アバスチン、アフィニトール、イブランスなどです。最近では新しい癌の治療薬の多くが、分子標的治療薬です。

マンモトーム

針生検の一種で、エコーやマンモグラフィと併用して病変部の組織を採取します。吸引をかけながら組織を吸い取って行きますので、普通の針生検よりも採取できる組織量が多く、より得られる情報量が多くなるため正確な診断ができます。エコーでは見えない微小石灰化の集簇病変も、マンモグラフィと併用して生検可能です。皮膚の傷は、数mmだけで外来で局所麻酔をして行います。

免疫療法

人が持つ異物を排除する働き(免疫)を利用する治療法です。しかし癌細胞はもともと自分の細胞から変化した細胞なので、免疫システムをすり抜けてしまうことがあります。これまで ‘免疫療法’とされていた多くのものは実際の効果がなく、再現性のないものでした。近年研究が進み、癌の治療薬として認可された免疫チェックポイント阻害剤は、免疫細胞(リンパ球など)からのすり抜けを阻害することにより効果を及ぼします。分子標的治療薬で、乳癌(トリプルネガティブタイプ)でも研究されています。

薬剤耐性

癌に対する薬物療法で、はじめはよく効いていた薬でも、次第に効かなくなってきます。これは癌細胞の中で、その薬に対して耐性(抵抗性)をもった細胞だけが生き残って効かなくなってしまったからです。その場合には、働きの違う薬に変更する必要があります。
細菌と抗生物質の関係も同じです。

葉状腫瘍

乳房にできる腫瘍で、顕微鏡所見が‘葉状’に見えるためこの名前が付いています。乳房腫瘍の0。5%以下と稀な腫瘍ですが、40歳以降に好発し、短期間に大きくなることがあります。病理組織検査で良性、境界病変、悪性に分けられます。多くは良性ですが、悪性の場合には肺や骨に転移を起こし生命に関わることがあります。針生検では線維腺腫と鑑別がつかないこともあります。
治療は、腫瘍を露出させないように周りの組織をつけて切除します。

リキッドバイオプシー

従来の組織生検の代わりに、主として血液を使って診断や治療効果予測を行う技術です。血液中の極少量の癌細胞や癌細胞の成分、遺伝子の一部を調べます。患者の負担が少なく、早期に癌の遺伝子情報による適切な治療につながる手法として近年、世界中で研究開発が進められています。

臨床試験

より良い医療のために、新しい治療法や診断法、薬を開発しなければなりません。その時実際の患者さんに参加してもらい有効性と安全性を、今までの治療法(標準治療)との比較を科学的、 客観的に行う試験を臨床試験と言います。このうち新しい薬の承認を厚生労働省から得るための試験を、治験と言います。患者さんは十分な説明(インフォームドコンセント)を受け、納得された患者さんが参加します。参加した患者さんは、新しい治療法を受けることができる利点がありますが、必ず効果があるとは限りません。日本でも大きな病院を中心に臨床試験が行われています。臨床試験には3つの段階があり、第1相(安全性の確認)、第2相(有効性の確認)、第3相(従来の標準治療との直接比較による有効性・安全性の総合評価)と勧められます。
今の標準治療や薬も過去の患者さんたちの臨床試験によって認められてきたものです。

BRCA1, BRCA2

乳癌や卵巣癌の約5-10%は親から受け継いだ遺伝子の異常によって起こるとされ、その遺伝子異常によって起こる乳癌を遺伝性乳癌と呼びます。いくつかの原因遺伝子が報告されていますが、その中で乳癌に関わる頻度の高い遺伝子がBRCA1とBRCA2で、この遺伝子の異常による乳癌や卵巣癌は遺伝性乳癌・卵巣癌症候群 (hereditary breast and ovarian cancer, HBOC)と呼ばれています。BRCA1 / BRCA2遺伝子変異は常染色体優性遺伝により親から子に受け継がれ、BRCA1遺伝子変異があると70歳までに乳癌を発症する確率は46-78%、卵巣癌は20-40%とされ、BRCA2遺伝子変異ではそれぞれ43-80%、11-22%と報告されています。HBOC乳癌は多くの 非遺伝性乳癌と比べ、若年発症、両側性、多発性乳癌が多い特徴があります。血液検査によりBRCA1とBRCA2遺伝子異常は検査することができますが、保険適応外です。

EBM (evidence based medicine)

経験や思い付きではなく、科学的に証明された証拠(エビデンス)に基づいて行う医療のことです。 エビデンスは臨床試験によって作られ、毎年増えて行き、変わってゆきます。医師は患者に合致したエビデンスを集め、それに基づいて治療計画を立てて行きます。しかしエビデンスは限られた範囲ですので、患者さんによっては当てはまらないことも多く医師は試行錯誤しながら治療を行う場合もあります。毎年種々の癌に対する、多くのエビデンスが確立されています。
さらに近年では、治療を受ける患者の価値観を重視したVBM(value based medicine)も広がっています。

HER2 (human epidermal growth factor receptor type 2)

細胞表面に存在する上皮細胞増殖因子のレセプターの一種で、正常細胞では細胞の増殖などを 調節する働きがあります。乳癌患者の2割程度でHER2(ハーツー)遺伝子が増えて、HER2レセプターが増加しています。(陽性と言います)HER2陽性乳癌患者は、陰性の患者に比べて再発率は3倍以上であることが解っています。 遺伝子を調べるか、遺伝子から作られるタンパク質を癌の組織で調べることによりHER2陽性か陰性かを判定します。トラスツズマブ(ハーセプチン)やペルツズマブ(パージェタ)という薬は、HER2の抗体でHER2の働きを妨害します。 ハーセプチンは術前や術後投与の適応があり、術後の再発率は半分以下になりました。再発癌に対しては、ハーセプチンにパージェダと抗癌剤を併用することで予後が改善できます。 TDM1(カドサイラ)は、ハーセプチンに抗癌剤を組み合わせた薬剤で、再発乳癌が適応です。

Ki67

細胞周期関連核タンパクで、細胞増殖のマーカーとして組織検査で調べられます。染色された癌細胞の核の比率を数値で表します。数値は傾向を見るためのもので、30%以上は増殖能が高く、悪性度が高いと考えられます。予後に相関しますが、治療効果予測にはなりません。MIB-1はKi67を染色するときの代表的な抗体です。

PET (positron emission tomography)

癌細胞がブドウ糖を正常細胞より多く使うことを利用して、CTやMRI 検査ではできない質的診断が可能な検査法です。 CT検査装置と組合わせたPET-CT検査が主流になってきています。微小転移や悪性度の低い癌を見つけることはできませんが、リンパ節転移や遠隔転移の有無など、どこに癌が潜んでいるかわからないときに有用なことがあります。 癌の術後や治療中の人、癌が疑われる人には、保険適応になります。

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