先輩医師の声
ここでは、現在福岡大学医学部脳神経外科で活躍している先生方のキャリアパスなどについて、本人達の言葉を通じて紹介します。
女性脳神経外科医のキャリア形成
日本の女性医師は、22.8% (2020年)であり、他の先進国が40%以上であるのと比較するとかなり低い数値です。その中で、外科系診療科別における女性医師の割合は、皮膚科、乳腺外科、婦人科、麻酔科が40%を超えるのに対して、脳神経外科は6.9% (2022年)の現状です。ちなみに整形外科5.7%、心臓血管外科6.7%、消化器外科6.9%、泌尿器科7.4%と脳神経外科は3番目に低いです。
一般企業では、ダイバーシティ推奨 (DE&Iダイバーシティー・エクイティー・インクルージョン)により、多様性を生かした女性の活躍の場は増えています。その背景から、医学部の女子学生は、1980年代の15%以下から、現在は40%以上と増加していることを考慮すると、今後の女性医師の活躍がより期待され、キャリアサポートの充実が求められます。
妊娠・出産・育児と、仕事の両立は、医師に限らずどの職種・職場でもとても大変なのは言うまでもありませんが、我々脳神経外科の様に急患対応が求められる職場では特に顕著で、女性医師も将来のことを考えたり、パートナーや家族の反対もあって、脳神経外科医を志す夢を諦める先生もいるかもしれません。また臨床研修医制度、医師の働き方改革に伴い、よりハードな外科系診療科は、男性でさえ避けやすい傾向があり、より女性医師の入局が求められています。そのためには個人レベルだけでなく医局としての組織的な意識改革と入局後のキャリア形成をしっかり構築し、将来設計をし易くする必要があると考えます。
脳神経外科の診療は、脳血管障害(開頭手術、カテーテル治療)、脳腫瘍(悪性・良性、神経内視鏡手術)、頭部外傷、機能外科、脊椎脊髄、小児、リハビリと守備範囲が広いことが特徴で、全員が第一線の外科医になる必要はなく、まさに多様性を生かしそれぞれの分野で活躍することができます。
福大脳神経外科の女性医師は、11.5%と平均よりも多く、より早い段階でキャリアサポートの構築に着手して来ました。当科の女性医師のキャリア形成として、外科医である以上、一定レベルの手術手技の習得とセカンドキャリアに備え、最短での脳神経外科専門医と脳卒中専門医の取得を目標にしています。そのために充実した育成プログラムの下、早期より手術経験を積み、産休・育休によって生じるキャリアブランクは最短で埋めるように調整します。また連携・関連病院も多数あり医局員も多いことから、自宅から近い職場配置、長期の産休・育休取得、妊娠中・育児中の労働時間短縮・当直免除なども配慮いたします。また男性脳神経外科医の育休取得も積極的に推進しています。
医局員が、それぞれの特性を生かし活躍できる環境、サポートし合える環境を整え、全員が幸せな脳神経外科キャリアを進めることを望みます。当科のプログラムに所属している女性脳神経外科医のキャリア形成に関して紹介しています。入局直後で今後脳神経外科キャリアを形成してく先生、現在第一線で外科手術を行なっている先生、結婚・出産後セカンドキャリアを形成している先生など様々な意見がありますので、ぜひご覧になってください。
脳神経外科の育休報告
育休報告
救命救急センター 脳神経外科 田尻崇人
救命救急センターで脳外科をやっております脳外科11年目の田尻と申します。近年、男女平等や働き方改革の波が大きくなり、脳外科でも育休を取得することが可能となりました。今回、1週間と短期間ではありますが育児休暇を取得させていただきましたので体験記を書かせていただきます。これから育休を取得する方の少しでも参考になればと思います。
育児休暇とは子供が1歳になるまでに取得できる休暇であり国が定めた休暇であります。男性も女性と同様に取得できます。しかし、育休中は基本給の65%が収入として支払われるのみで外勤などは禁止されます。銀行口座のチェックもあるため隠れて外勤に行くこともできません。また賞与(ボーナス)のある職員は育休をとることで減額となります。給与面を考えるなら、育休よりは有休を消化する形で取得したほうが良いと思います。ただし、2週間以上の休暇取得を目指すのであれば育休を申請したほうが良いと思います。
男性が長期の育休を取得することは難しいため、男性育休の目的は妻が一番大変な時期を短期間サポートするために取得することがほとんどです。具体的には子供が生まれてから最初の数週間や妻が職場に復帰する数週間、子が保育園に行き始める時の慣らし保育期間などです。短期間の育休をとる男性のために子が1歳になるまでは2回に分けて育休を取得することが2022年より可能となっています。なお、子が1歳を過ぎても小学校入学までの間であれば育休の取得は可能ですが、この場合は分割して取得することはできません。
自分の場合は妻の職場復帰に合わせて育休を取得しました。給与面では基本給の65%が支払われます。1か月未満の育休の場合、基本給を日割りして対象期間の基本給65%が収入になります。自分は卒後8年目であり妻は同級生で大学病院に医師として勤めています。子供は3人おり、上から4歳男、3歳男、1歳女の5人家族です。妻は産休や育休で仕事がほぼできていなかったので2023年春から後期レジデントとして大学病院で働き始めた状態です。
育休を実際に取得した感想として、育児はものすごく大変でしたが妻の苦労を少しでも知ることができてとてもよかったと思います。
育休の始まりは前日の夜からです。夜のうちに食器洗いや洗濯などを済ませておきます。子供たちが寝てから家事をすると大体深夜1時ごろになります。就寝後、朝は6時に起床します。7時半までに自宅を出ないと幼稚園バスに間に合いませんが持っていくものを準備するのに1時間ぐらいかかります。幼稚園や保育園には園ごとに独自のルールがあり学年によっても変わってきます。日によってはイレギュラーな物品(鍵盤ハーモニカ、水着、牛乳パック、トイレットペーパーの芯など)を持っていく場合もあります。3人分を用意するとなると1時間ほどかかります。ようやく準備を済ませて7時ごろから子供を起こして朝食を摂らせ、着替えて出るわけですがこれがうまくいきません。起きない、食べない、着替えない、やっとの思いで準備して出かけようとするとトイレに行きたくなり全裸になります。制限時間があるためものすごくイライラしますが怒っても全く意味がありません。なだめすかしながら子供たちを送り出します。当然、家はぐちゃぐちゃになっていますのでそこから片づけを始めます。片づけをしていると幼稚園から忘れ物の連絡が入り、車で持っていきます。帰りがけに夕飯の買い物をして家に帰って洗濯や片付けの続きをしているとあっという間に夕方になります。夕方の16時から17時にはお迎えに行く必要があります。車は帰宅ラッシュで渋滞しています。やっとの思いで園にたどり着くと子供はおなかがすいていて不機嫌です。車になかなか乗らなかったり、乗ったと思ったらトイレに行きたくなったりします。どうにか自宅に帰ってから夕食の準備をします。これも素早く作らないと子供が眠ってしまいます。どうにか作った食事もおいしくないとか言われて食べなかったりして腹が立ちます。その後、風呂に入れて、歯磨きして、絵本を読んで就寝します。この時点でへとへとで大体自分も寝落ちしてしまいます。そうなると翌朝には洗っていない食器や洗濯もので家があふれており、スムーズに家から出られなくなります。このループを繰り返します。育児や家事には終わりがなく、途切れなく続いているような感じがしました。そこから解放される瞬間は基本的にないため、そういう意味では仕事より大変だなと思いました。私の育休中の生活は決して特別なものではなく、世の中のお母さん方が当たり前に行っていたことです。
残念ながら育休を経ても家事や育児の負担は今も妻のほうが大きいです。しかし、家事育児より仕事のほうがずっと大変だと考えることはなくなりました。少しでも時間があれば家庭のことをやろうという姿勢ができました。当然、妻もちょっと優しくなりました。仕事においてもできるだけ早く帰れるよう集中できているような気がします。
自分にとって育児休暇を取得したことはこれからの家庭や仕事を考えるうえでとても有益でした。これから育児休暇を取得する仲間が増えることを願っています。